支援ロボット「ダビンチ」による食道がん手術

 胃がんの手術が最初に成功したのは1881年で、切除法や再建法など今も世界中でされる手術の原型は19世紀に完成しました。最初に転移するリンパ節を切除する「郭清(かくせい)」が提唱されたのも20世紀半ばです。
 なぜ外科手術がそこから進歩しなかったかというと、「がんが見えない」からです。人の目で見えるのはがん細胞の塊で、がん細胞そのものではない。がんの転移はおそらく細胞レベルではじまるが、その転移するがん細胞が見えないことが手術のときの大きな問題になります。
 しかし最近、色々な技術が開発されています。私たちもがんだけを光らせる蛍光試薬を開発しました。これをまくと目で見えないがんが光って見えます。2,3年で臨床現場で使える見通しです。
 見えるようになると、その部分だけをうまく切り取ればよい。最近出てきたのがロボット手術です。私たちは食道がんの手術で、「ダビンチ」という手術支援ロボットを使っています。「手」にあたるアームには七つの関節があって、人間の手よりよく動き、操作者の手の震えも伝わりません。「目」にあたるカメラも人の目よりもよくて、拡大もできます。
 食道がんは胸やおなかなどを開いて、7〜8時間かかる大手術ですが、人間の手が入らない狭い部分でもロボットは入るので、患者さんの負担や合併症の危険を減らせます。
 今後のがん手術はこういった技術を駆使して臓器を残し、患者さんの手術後の生活の質を担保することが大事です。がんがあるところだけをうまく取るというのが外科医が目指すべきがん手術となっていきます。(東京大教授 瀬戸康之さんのお話。朝日新聞掲載の記事より。)