Entries from 2012-01-01 to 1 year

edel_weiss306の酒場放浪記

酒場詩人の吉田類氏のテレビ番組はほとんど欠かさず観ているが、成田の「さわらや」を訪問した番組は、他用があって見逃してしまった。先日、成田山へ交通安全のお札を返しに行った際に、いつも通る参道から脇へはずれて「さわらや」のある方角へと歩いて行…

≪中欧論≫ A.シュティフターの『水晶』再考 −その1−

毎年クリスマスが近づいてくるといつも決まってというわけではないが、オーストアの作家アーダルベルト・シュティフターの『石さまざま』という短編集のことを思い出す。 とりわけ収録された六編の中で『水晶』と題された作品に想いが引き寄せられる。 18…

≪中欧論≫ A.シュティフターの『水晶』再考 −その2ー

決定稿すなわち『水晶』が発表されたのは1853年であるが、初稿が改作されるまでの7年間に、作者は3月革命という大きな歴史的事件を経験している。また『水晶』は、『石さまざま』という作品群(Zyklus)に含まれる一編であるという点も無視できない。…

リヒテンシュタイン  ──華麗なる侯爵家の秘宝──

12月7日、国立新美術館で目下開催中のリヒテンシュタイン展を観にいってきた。侯爵家の膨大なコレクションが展示されていて、丹念に鑑賞したせいか、見終わる頃にはかなり疲労を覚えた。スカイツリーの下の東京ソラマチで家族と待ち合わせ、夕食を一緒に…

≪中欧論≫ ニコラウス・レーナウ(1802−1850)

本名は、Franz Nikolaus Niembsch, Edler von Strehlenau。レーナウは、1802年8月13日Csatad(Banat)に生まれた。ハンガリー貴族の家系。1807年に父親が亡くなり、1811年母親は医者のKarl Vogelと再婚。ペスト市のギムナジウムで、レーナウは…

我が家の元気者(ロビン)

昨日は、可愛がっていたセキセイインコのレモンの命日だった。彼は2年前の11月30日に私の掌の上で静かに息をひきとった。美食がたたったせいか、痛風に罹って飛ぶのが困難になり、足を引きずりながら歩いていた。教え込んだいくつかの言葉も、ちゃんと…

≪チェコ構造主義美学≫断想

ムカジョフスキーは、文学テクスト分析の方法論上の出発点として、伝達の表現(伝達文)と詩的テキストを截然と区別し、たとえば「夕暮れになる」という表現が伝達文とみなされる場合には、受け取る者の注意は、記号としてのテクストと意味表現として指し示…

≪中欧への心の旅≫

長年にわたる関心の対象、すなわち≪中欧論≫をめぐる諸テーマを思い描きながら、いささかキザな表現ではあるが、それを「心の旅」として素描すれば、おおよそ次のような内容になるだろう。 ≪中欧への心の旅≫ ①ウィーン・バウエルンマルクト10 グリルパルツァ…

≪気に入った映画を観る≫

まず「カムイ外伝」。白土三平の劇画(コミック)を実写映画化したこの作品は、簡単に論ずるのが難しいようだ。ワイヤー・アクションやCGによる特殊技術を駆使した映像の作為的な不自然さばかりが酷評されがちではあるが、抜け忍として孤独な逃亡生活を送…

ボジェナ・ニェムツォヴァー作『おばあさん』(栗栖継訳)を読む

まるでシュティフターを思わせるような細やかな筆致で、北部ボヘミア地方の山村を舞台にして、四季の自然の推移や、多くの孫たちに囲まれての祖母の日々の営みが淡々と描かれている。語り手はおばあさんであるが、物語の流れは決してスローテンポではなく、…

画文集「思い出バス120景」(続き)

この前のブログでは、書ききれなかったが、著者はバスの構造や型式、製作年代、ボディーの塗装デザイン等に関しても専門家顔負けの該博な知識を持っていて、画文集の中でもそうした知識の一端が披露されている。それらの文章も併せ読むことによって、著者の…

画文集「思い出バス120景」

いやなんとも素晴らしい画文集が刊行されたものである。著者は、プロの画家ではなく、私のブログにも度々ご登場願っている作曲家飯沼氏である。彼は私の高校時代の同級生で、時に芸術論を闘わせる親友である。昔懐かしいボンネットバスの走る信濃の風景を描…

≪ミステリー論≫

≪ミステリーへの旅ー名作を自分流に読む≫ght:bold;">アントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』再読 スコットランドヤード(ロンドン警視庁)首席警部モレスビーによる事件の報告の要旨をまとめれば以下の通りである。 朝の10時半頃ピカデリー大通…

≪ミステリー論≫

≪ミステリーへの旅ー名作を自分流に読むー≫E.T.A.ホフマン『マドモアゼル・ドゥ・スキュデリ』とE.A.ポー『モルグ街の殺人』 〜ミステリーの始祖をめぐって〜ホフマンは、上記の作品を1818年3月に書き始め、夏に入るまでに書き終えている。発表は、翌1…

≪ミステリー論≫

≪ミステリーへの旅ー名作を自分流に読むー≫ ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』 作者のヴァン・ダインは、本作品の題名を最初は『マザー・グース殺人事件』とするつもりであったらしいが、周囲の人々に児童物語と誤解される恐れがあると反対され、もう一つのタ…

≪中欧論≫

≪中欧論≫ 「中欧」とは何か?──新しいヨーロッパ像を探る── (『思想』2012年 第4号, 岩波書店) を読む これは数多くの研究者による論文を集成した特集であるが、正直なところ読めば読むほど中欧像が茫漠として見えにくくなる。 難解ながら読み応えがあ…

≪美ヶ原高原≫紀行

七夕前の7月5日、6日に1泊で美ヶ原高原へ出かけた。美ヶ原へ行くのは何十年ぶりかのことであったが、親戚の方が万全の準備をして計画してくれたので、楽しい山旅であった。本当は6月19日、20日の予定であったが、本土を襲った台風のため延期をせざ…

≪アントニオ・タブッキの作品について≫

3月25日に逝去したイタリア人作家A.タブッキに関しては、これまでほとんど知るところがなかったといっていいが、その名前の響きが不思議に強く記憶に残っていて、代表作といわれる二作品を手に取ってみた。 まず『インド夜想曲』の読書感想。インドで失…

≪吉本隆明 追悼≫

≪吉本隆明 追悼≫ 吉本隆明の全体像について述べる資格も能力も私にはないが、私が最も強い影響を受けた著作『言語にとって美とはなにか』に関して私見を述べたい。言語の美とはなにか、あるいは、言語における美とはなにか、といった問題の立て方ではなく、…

『私の闘病記』

2010年の10月末、かねてから計画中で楽しみにしていた大学時代の寮生活仲間4名との京都八瀬離宮での約50年ぶりの再会の後、年の瀬頃から体の不調を覚え、市民病院を訪れて検査を受けることになった。頻尿と排尿困難が明確な症状であったが、泌尿器…

浅草三社祭とスカイツリー

3月18日は親戚の集まりがあり、浅草のホテルに宿泊した。いつもは新年会の集まりなのだが、今年は例年になく寒さが厳しかったので3月に順延になった。18日は三社祭斎行700年を記念する行事、三つの神輿を船に乗せて隅田川を進む「船渡御(ふなとぎ…

≪栄村訪問記≫を読んで

以下の文章および写真は、私の尊敬する作曲家(ブログ『信濃木崎夏期大学講義を聴講して』を参照)が、今年11月、長野市で開催される全国音楽教育研究大会の「研究演奏ステージ」で、栄中学校40数名の全校合唱が歌う新作合唱曲の制作を依頼され、その取…

edel_weiss306の酒場放浪記

今年は26年ぶりの寒さとか、老いの身に寒さが殊のほかこたえる時期であったが、2月初旬月亡父の50回忌で、信州へ行ってきた。厳寒の時期にきょうだい皆(兄姉妹)が集まるのも久しぶりのことだった。50回忌をやるのは珍しいことのようだが、親父がそ…