Entries from 2011-01-01 to 1 year

≪中欧論序説≫    ─中欧の歴史と文化を知るために─

ミラン・クンデラの中欧意識 1975年チェコからフランスに亡命した小説家ミラン・クンデラは2005年に出版した3冊目の評論『カーテン ─7部構成の小説論』(西永良成訳、集英社)の中で、ヨーロッパというものについて次のように述べている。ヨーロッ…

瀬戸内地方への旅

朝晩の冷え込みが強まってきた11月の末に瀬戸内地方へ旅行した。その昔名古屋に住んでいた頃、職場の同僚として親しく付き合った人を訪問するのが目的の旅だった。岡山までは「のぞみ」で早々と到着し、その後は迎えに来ていただいた車で後楽園などの名所…

アルマ・マーラー著『グスタフ・マーラー』 (愛と苦悩の回想)

アルマはエミール・J・シントラーの娘で、父の死後、カール・モルの養女となった。多くの芸術家たちに愛された彼女は、まさにウィーンという都市に生きたファム・ファタール(運命の女)というべき存在であった。音楽家グスタフ・マーラーの妻となり、その後…

月の沙漠

千葉県に40年近くも住みながら、御宿にある「月の沙漠記念像」の存在は知りつつも、訪ねたことはなかった。一昨日友人にドライブに誘われ、房総半島南端の白浜や野島岬まで行き、新鮮な魚料理を満喫して、海を見ながらの会話に時の経つのも忘れるほどだっ…

H.M さんへ(過去の日記から)

ある受講生から、ポーの『黄金虫』とコナン・ドイルの『踊る人形』の両作品に見られる暗号解読の関連性について授業で扱ってほしいとの要望がありましたので、両作品をじっくり読んでみました。特にポーは推理小説の枠を越えて、描写の細部に不思議な輝きが…

「失われた《解釈》を求めて」──ナラトロジー的観点を軸に (『失われた時を求めて』に関する覚え書き)

プルーストは、無意志的記憶と意志的記憶を区別するという心理学的な理論に基づいて自作の小説の構造を築いた。紅茶に浸したマドレーヌの味わいが、不意にコンブレーの町の記憶をすみずみまでよみがえらせたように、無意志的記憶のよみがえる瞬間が、人を時…

実用言語と詩的言語

詩的言語は自らのうちに存在理由をもっている。詩的言語は、それ自体が目的であって手段ではない。詩人は、言葉を記号として利用することはしない。というよりは利用することができない。詩人はつねに名づけようのないものに向かって、それを名づけようとす…

≪中欧論≫ プラハの街の地形学

プラハの街(1) 14世紀神聖ローマ帝国皇帝であったカレル4世(在位1346−78年)治世の時代に街の骨格となる形がほぼ完成した。プラハ大学創設、カレル橋の創建、大司教座を置くなど歴史に残る多くの偉業を行なった。旧市街のほかに新市街の建設を促進さ…

≪中欧論≫ クラウス・ヴァーゲンバッハ著『若き日のカフカ』(中野・高辻訳)を読む

ヘルマン・カフカ(父)は、チェコ・ユダヤ系の地方プロレタリアートの出身で、プラハにおいてもヨーゼフ区のスラム街に住んでいたのに対し、ユーリエ・レーヴィ(母)は、裕福なドイツ・ユダヤ系家族の出身で、プラハでは旧市内広場の「スメタナ館」に住ん…

2011 信濃木崎夏期大学講義『音を紡ぐ・音で紡ぐー文学と音楽ー』を聴講して

木崎湖を渡ってくる心地よい涼風に暑さも忘れながら信濃公堂で聴いた講義『音を紡ぐ・音で紡ぐ』は、不思議な夢のような世界へ私を導いてくれた。講師は作曲家の飯沼信義氏。講義の内容を端的に言えば、太宰治の原作短編『魚服記』と、それをNHKがラジオ・オ…