画文集「思い出バス120景」(続き)

 この前のブログでは、書ききれなかったが、著者はバスの構造や型式、製作年代、ボディーの塗装デザイン等に関しても専門家顔負けの該博な知識を持っていて、画文集の中でもそうした知識の一端が披露されている。それらの文章も併せ読むことによって、著者の絵筆が様々なアングルから捉えたボンネットバスに一層の愛着を覚えるであろう。かく言う私も、背景に広がる懐かしい故郷の風景に、思わず感嘆の声をあげて、画面を食い入るように見つめた人間の一人である。停車場で乗客を乗せているのんびりした姿、一途にひたむきに雪の積もった急坂を上ってゆく雄々しい姿、西に北アルプスの山並みが見える安曇野の平坦な道を優美に走る姿など、著者の愛情に包まれて、バスは人間のような豊かな表情と存在感を感じさせてくれる。
        『鈴蘭小屋始発の「島々行き」』

 河童橋から見上げる峻嶮の連なる穂高連峰も悪くはないが、私は鈴蘭から眺める優美でなだらかな稜線をもつ乗鞍岳も好きだ。乗鞍高原はスキー場としても有名で、往年の名スキーヤーで、イタリアのコルティナダンペッツオの冬季オリンピックで男子回転で銀メタルを獲得した猪谷千春選手は、この乗鞍でコーチの父親から猛特訓を受けたそうである。今でも猪谷選手を記念する猪谷スキー場が、番所にある。鈴蘭小屋からは一の瀬牧場が近く、春から夏にかけ遊歩道を歩くと湿原に水芭蕉が咲いていたり、遠くの草原では放牧の牛が草を食んでいる姿が見られたりした。番所は蕎麦の産地で、真白な花が咲き揃った蕎麦畑は壮観ですらある。白骨温泉は、白濁した湯につかるのが好きで、何度も足を運んだことがある。2004年頃だったと思うが、野天風呂に入浴剤を入れていたことがバレて、とんだ露見風呂となったことを覚えている。今はもちろんそんなことはないはずである。昔は沢渡が上高地方面へ行く道と白骨温泉へ行く道の分岐点であり、ここから左側の山沿いに行くのが白骨温泉への一般的なルートであったが、今ではスーパー林道ができて乗鞍の鈴蘭から白骨温泉へ短時間で行けるようになった。