オルセー美術館展

 オルセー美術館展が7月9日から10月20日まで東京・六本木の国立新美術館で開催されることになった。テーマは「印象派の誕生」である。金曜日は午後8時まで展示されているので、18日の午後遅い時間帯に出かけた。出品されている作品は印象派を中心とする84点であるが、展示室に入ったわれわれを最初に迎えるマネの「笛を吹く少年」が、着衣の平面的な色彩処理によって斬新な印象を目に刻みこむ。背景の処理に見られるベラスケスの影響とか、着衣の色遣いに感じられる浮世絵の趣向など云々されるが、独創的な絵画の出現を告げる作品であることは間違いない。

 純真な表情のなかに健気さを見せながら、ひたむきに笛を吹く少年の凛々しいともいえる姿は、一度観たら忘れられない印象を残す。
 この展覧会は、オルセー美術館の統括学芸員であるカロリーヌ・マチューさんが言うように、文字通りマネに始まり、マネに終わる構成になっている。革新的な制作に挑み、常に新しい試みを大胆に持続していたマネではあったが、病魔のために51歳の若さで逝った。最後の展示室は、マネ円熟期の6作品で占められている。荒い筆触で描かれた大海原の波間を、追放されたロシュホールが小舟で逃亡する場面を描いた作品が、最後に飾られていた。
 実はオルセー美術館は、だいぶ昔のことになるが、1989年10月にパリへ旅行した際に観たことがある。昔の我が身の恥をさらすようで恥ずかしいが、ルーヴル美術館を見学した後、オペラ座近くの裏通りをぶらぶら歩いていると、突然二人連れのアラブ系風の女が両側から袖にしがみつき、「フラン」「フラン」と叫んでお金をせびろうとしたので、振り切ろうとして揉み合っているうちに、どうやら内ポケットからTCを抜き取られてしまったようだった。ちょうどそこへ日本人の若い男性が通りかかり、事情を聞いてすぐ銀行へ電話したほうがいいといって、パリの第一勧業銀行支店の電話番号を教えてくれた。彼はパリ暮らしが長いらしく、今の女スリはもしかすると三人組だったかもしれないと言っていた。すぐに公衆電話から東京のシティ・コープの代理店に電話したものの、うまく連絡が取れず、パリの第一勧銀支店に電話すると、あいにく日本人の行員は外出中で、困り果てていると、ちょうどすぐ近くに三越デパートがあったので、すぐ事務所へ駆けこんで、日本人の社員からコレクトコールで東京へ電話をしてもらったり、第一勧銀のパリ支店にも電話をしてもらい、ようやく日本人の駐在員と通話することができた。三越の日本人社員はなかなか親切な人であった。それにしても、お上りさんにとって、パリは本当に怖い所だとつくづく感じさせられた。パスポートが盗られなかったのは、不幸中の幸いであった。
 この災難のために気もそぞろであったが、その日は予定通りオルセー美術館も見ることにした。ミレーやコローの絵画、写実主義印象主義などの絵画が印象に残った。先程の災難が心にわだかまっていて、どんな名画を観ても、精神を集中して鑑賞できないのは、本当に残念であった。(後で気がついたことだが、オルセー美術館の最上階には自然採光による照明で印象派後期印象派などの絵画が展示されているが、気が動転していたせいか、これらの作品を見落としてしまい、かえすがえすも残念であった。これらの作品は、この美術館の目玉ともいえるだけに、なおさらであった。)

     クロード・モネ ≪かささぎ≫

    










 クロード・モネ ≪アルジャントゥイユの船着場≫