フランツ・カフカ:「オドラデク」

  
『家父の気がかり』(Die Sorge des Hausvaters)は、フランツ・カフカの短編小説。1917年執筆。1920年に作品集『田舎医者』に収められた。虫とも動物ともつかない奇妙な
生き物「オドラデク」をめぐるごく短い話である。この作品は「オドラデク」に対する語り手の、ある意味でお節介ともいえる、否それどころか繊細で心優しい胸が痛むような思いやりが描かれている。

「オドラデク」という名前は一説によるとスラヴ語であり、また別の説によればスラヴ語の影響を受けたドイツ語であるともいわれる。その形状は、一見すると平たい星型の糸巻きのようで、実際その周りには古い糸が巻き付いている。そして星型の中央から棒が突き出ていて、さらにその棒と直角に小さな棒が付いている。オドラデクはこの棒と星型の突起のひとつを足にして立っているのである。
 オドラデクは神出鬼没で、家の中のあちこちに現れ出るが、そうかと思うと何カ月も姿を見せなかったりする。名前を尋ねると「オドラデク」だと言い、住処を尋ねると「わからない」と答える。そうして落葉がかさこそ鳴るような笑い声を立てる。
 語り手は自分が死んだ後も、孫子の代に至るまでこのオドラデクが生きているのかと考え、複雑な気持ちを抱く。死ぬ者(人間)はみな、前もって目的をもち、仕事をし、そのために身をすりへらしてしまう。だがこれはオドラデクには当てはまらない。それとも彼もやはり、わが家が子孫の代へと移るとともに、いつかは撚り糸を引きずりながら階段を転げ落ちるのだろうか。でも彼が誰も傷つけないことは明らかだ。しかし彼が私よりも長生きすると考えるのは、私にはつらく切ないかぎりだ。
 いかにもカフカらしい作品である。