カフカの『城』とは何か・・・『城』を求めての果てしなき旅(続稿)

写真集

 Kが到着したのは、晩遅くであった。村は深い雪のなかに横たわっていた。城の山は全然見えず、霧と闇やみとが山を取り巻いていて、大きな城のありかを示すほんの微かな光さえも射していなかった。Kは長いあいだ、国道から村へ通じる木橋の上にたたずみ、うつろに見える高みを見上げていた。
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  今やKは、城が澄んだ空気のなかで上のほうにはっきりと浮かび上がっているのを見た。あらゆるものの形をなぞりながらあたり一面に薄い層をつくって積っている雪のなかで、城はいっそうくっきりと浮かんでいた。ところで上の山のあたりは、この村のなかよりもずっと雪が少ないように見えた。ここの村のほうでは、きのう国道を歩いたときに劣らず、歩くのに骨が折れた。村では雪が小屋の窓までとどいていて、低い屋根の上にも重くのしかかっていたが、上の山のほうではすべてのものがのびのびと軽やかにそびえていた。少なくともここからはそう見えた。
 城は、遠く離れたここから見える限りでは、Kの予期していたところにだいたい合っていた。古びた騎士の山城でもなく、新しい飾り立てた館(やかた)でもなく、横にのびた構えで、少数の三階の建物と、ごちゃごちゃ立てこんだ低いたくさんの建物とからできていた。これが城だとわかっていなければ、小さな町だと思えたかもしれない。ただ一つの塔をKは見たが、それが住宅の建物の一部なのか、それとも教会の一部なのかは、見わけがつかなかった。鴉(からす)のむれがその塔のまわりに輪を描いて飛んでいた。(原田義人訳)